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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
06 鶯ばか
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 页
と長次は云った、「おれが悪かったんだ、おれ、そのほかにも泥棒したことがあるもの、だから、とうちゃんとかあちゃんが怒って、もうだめだって、おれのような、泥棒をする子が出ちゃって、近所で泥棒だって云われちゃえば、もうおしまいだって、それでみんなで、死ぬことになったんだ。水を飲まして」
登は女房たちを見た。おけいが湯呑を取ろうとし、登は「きれいな晒木綿を」と云った。毒物を吐くときに喉を爛れさせているし、もうごくりと飲む力はないと思ったのだ。おけいが手拭をきれいに洗い、その端に水を浸みこませて持って来た。
登はその尖端を小さくまるめて、長次の口へ入れてやった。
「吸ってごらん」と登は云った、「舌でそっと吸うんだ、静かに、そう、静かに」
だが、長次は激しく噎せ、僅かばかり吸った水といっしょに、悪臭のあるものを嘔吐し、脱力した躯をねじ曲げてもがいた。
「おれが悪いんだからね、先生」少しおちついてから、長次はまた云った、「とうちゃんや、かあちゃんのこと、勘弁だよ、ね、勘弁だよ先生、わかったね」
「わかった」登は長次の手を握った、「よくわかったから少し眠るんだ、話をすると苦しくなるばかりだぞ」