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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

08 氷の下の芽

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页

青空文庫

五

登はちょっとまをおいて答えた、「森ではいかがでしょう」

「おまえがやれ」と去定は云った、「まもなく結婚するんだろう、なにか参考になることが聞けるかもしれない、今日は外診の供を休んでいいから、自分で聞きだしてみろ」

五

おえいが話しだすまでに、およそ二刻あまりもかかった。

朝食も茶も、登の部屋へ取り寄せてやったが、どちらにも手を付けず、板敷へじかに坐り、壁のほうを見たまま、躯ぜんたいで頑強に拒否の意を示していた。十時を過ぎたので、今日はもう諦めようかと思ったとき、急におえいが咳ばらいをし、乾いた声で、殆んど嘲笑するように云った。

「どうせぶっ毀れる車なんだから」

登は息をひそめた。おえいはまた沈黙したが、やがてぐいと肩を揺りあげ、登のほうへ背を向けたまま、云った。

「あたし赤ちゃんを産みます、誰がなんてったって産みます、あたし独りでりっぱに育ててみせますから」

登は黙っていた。黙っていても話し続けるだろう、と思ったからであるが、おえいは口をつぐんでしまい、長いあいだ身動きもしなかった。それで登は、できるだけなにげない調子で問いかけた。

「産みたいのならここで産めばいい、どうして逃げようとなんかしたんだ」