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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
08 氷の下の芽
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页
姉のおりつはいちど逃げたが、すぐに捉まってしまい、いま二十三になるが、幾たびもくら替えをしたのち、千住の遊女屋に勤めているらしい。兄の次郎は二十歳で、どこかの土方部屋にころげこみ、すっかり悪くなっているという。十五になる弟の兼次や、二人の妹のことも気になるが、自分は生れて来る子と、自分の一生を守りとおすつもりだし、それで精いっぱいである、とおえいは話をむすんだ。
「よくわかった」と登は云った、「子を産むまでここで面倒をみるから、部屋へ帰っておとなしくしておいで、いいか、逃げたりすると自分が困るばかりだぞ」
「はい」とおえいは頷いた、「もう決して逃げたりなんかしません」
登はその夜、去定が外診から帰るのを待って、おえいのことを話した。去定は黙って聞いていたが、話し終ってもそのまま黙っているので、おえいが子を産むまで世話をしてやってもいいだろうか、と登が訊いた。
「子を産むまで、――」と去定は訝しげに登を見、それからいそいで頷いた、「むろんだ、もちろんここで面倒をみてやるさ、ほかにどうしようがある」
登は口ごもりながら云った、「あの母親のほうが問題だと思いますが」