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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

01 狂女の話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 页

青空文庫

四

それが躰質であり先天性のものだとすると、娘の犯したことは娘の罪ではない。不手際に彫られた木像の醜悪さが、木像そのものの罪ではないように。

――だがちぐさの場合はちがう。

ちぐさはまったく正常な娘だった。登はそう思いながら唇を噛んだ。

「可哀そうなのはお杉です」と津川は続けていった、「それが奉公だからやむを得ないにしても、こんな養生所の中で牢造りの家に住み、気の狂った娘の世話をしてくらすなんて、しかもいつ終るか見当もつかないことですからね」

「奉公人ならやめることもできるでしょう」

「いや、やめないでしょう、あの娘は心の底から主人に同情しています、同情というより愛情というべきかもしれないが」津川は首を振り、太息をついた、「ここを出ていくのに少しもみれんはないが、お杉に会えなくなるのがちょっと残り惜しいですよ」

登はつい先刻、お杉が顔を赤らめたことを思いだした。

四

お杉が顔を赤らめたのは津川のためではない。津川はお杉と親しいような口ぶりをみせたが、お杉のほうではなんとも思ってはいなかったのだ。初めて南口の外で会ったとき、お杉が頬を染め、恥らいのまなざしで会釈したのは、登がみつめていることに気づいたからである。