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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
01 狂女の話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 页
「――どうして」と彼は訊き返した。
「お嬢さまがそういうことになったのなら、天野さまはそのお償いをなさる筈ですわ、償いをなさらないにしても、御目見医にするという約束だけは、多少むりでも守らなければならなかったと思います」
それは二月下旬の夜、登がお杉とはじめてゆっくり話したときのことなのだ。
ゆみたちの住居から十間ほど離れた、竹藪の前に腰掛がある。腰掛は入所患者のために、陽当りのいい場所に七つあるが、その竹藪の前にある腰掛はゆみのために設けたもので、屋根を掛けた亭づくりになっており、夜などは人の近づくこともなかった。――その夜、登は新出去定とやりあったあと、園夫の吉太郎に酒を買って来させ、部屋で飲んでいたのだが、どうにもやりきれなくなって出て来た。そしてその腰掛で、瓠に詰めて来た酒を飲んでいると、お杉があらわれたのだ。彼女はゆみのおかゆを始末したあとで、ふと登がそこにいるような気がしたから、ちょっとようすをみに来たのだという。――ゆみは半刻ほどまえに発作を起こしたが、いつもの薬を飲んで熟睡したから、鍵を掛けて出て来た、ともお杉は云った。登はそれを、ゆっくりしていってもいい、という意味にうけとり、酔ってもいたので、そんな話までしはじめたのであった。