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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
01 狂女の話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 页
八
登は躯のどこかに激しい衝撃を感じ、女の悲鳴を聞き、そして気を失った。
八
登は眼の前に坐っている赤髯を見た。その脇に森半太夫がおり、赤髯が半太夫に話しているのが聞えた。
――まだ夢を見ているのか。彼はそう思った。すぐ眼の前にいる二人の姿が、ひどく遠いように思えるし、その話し声も、壁を隔てて聞えるような響きのない、非現実的な感じなのである。たしかに夢だ、そう思って眼をつむり、もういちど、用心ぶかく眼をあいてみると、森半太夫の姿はなく、新出去定が一人で坐っていた。
「眠れ眠れ」と去定が云った、「もう一日も寝ていればよくなる、なにも考えずに眠っていろ」
登は口をきこうとした。
「なんでもない」と去定は首を振った、「おまえは薬酒をのまされたのだ、あの酒にはおれのくふうした薬が調合してある、あの娘の発作をしずめるための、ごく特殊な薬だ、あの娘はお杉からおまえの話を聞いていて、いつかこうしてやろうと機会を覘っていたのだ、おまえは酒に酔っていた、ばかなやつだ、酔っていなければ人が違っていることぐらい、すぐにわかった筈だぞ」
登は首を振った。酔ってはいたが、それだけではない、暗がりでもあったし、あのしゃがれ声に騙されたのだ。