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せきようかんじけんのしんそう

赤耀館事件の真相

海野 十三

「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,797 字 · 60 页

青空文庫

勝見は既に彼自身が病気に罹っているところから、今後の彼の生活を保障して貰うのを交換条件として、笛吹川の意志に従ったのです。笛吹川は顎鬚を剃りおとし、髪かたちから風貌までを整えて笛吹川の死後、五日目に赤耀館へのりこんだのです。それからのちのすべては、いと安々と彼の希望どおりに運んで行きました。綾子夫人も彼の執念ぶかい好色から手に入れてしまうことも出来ましたし、夫人の手を経て恋敵である丈太郎氏を殺し、嫌疑が夫人にかかるように計画したこともその通りに成功しました。彼が暇をとると、勝見を某所の温泉から島の療養所に移して巧みに勝見という人間の行動を不連続にならぬようはからったのです。夫人のヒステリーの昂じたころ、築地のホテルへ誘き出し、前代未聞の恐るべき手段を用いて夫人を殺しました。詳しいことを説明するのを憚りますが、その夜、夫人が満悦したエクスタシーののち、恐らく笛吹川に渇を訴えたのでしょう。笛吹川はそのとき自ら口移しに夫人にレモナーデ水を与えました。何もしらぬ夫人は、灼けつくような渇きを医すため、夢中になってその甘酸っぱい水をゴクリと咽喉にとおしたとき、青酸加里のカプセルは笛吹川の口を離れて夫人の胃の腑に運ばれてしまったのです。