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えちごのふゆ

越後の冬

小川 未明

「新小説」1910(明治43)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,272 字 · 15 页

青空文庫

囲炉裏の火は全く消えて、鉄瓶の湯も水に返ったらしい。僅かに差し込む窓の明りが、其処に投げ出されていた笛と小刀とを照らして、小刀の刃が白く光って見えた。

太吉は笛を見ると、急に昼前、まだあの笛の孔を明けぬ前は母がいたのだと思った。母が今帰ってくれれば、この笛は昔の孔の明かぬ前になったからとて惜しくない。斯様笛はいらぬから、どうか母が帰ってくればいいにと地踏踏んだ。

太吉は小さな草鞋を穿いた。菅笠を取って戸を閉めると一目散に駆け出した。

「町へお母を迎いに行って来る――。」

こう独り言をいうと、急に胸が塞って、熱い涙がぱらぱらと湧いた。太吉は心のうちでこう叫んだ。

「お母に遇ったら、ウンと恨んでやろう! お母に遇ったらウンと泣いて小言をいってやろう!」

夢中になって一目散に峠を走って、村に下りると、急に他の人の顔が目に付いた。

けれど胸が張り切って、知った人に遇っても物を言うのが厭であった。

成丈け人の顔を見ないようにと走って、いつしか水車場の脇も通り越した時分、

高田へ行かしたか? 直江津へ行かしたか?……と惑った。

太吉の歩みは遅くなった。

「直江津へ行かしたんだろう? どれ、聞いて見よう……。