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あし

足

豊島 与志雄

「新小説」1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,967 字 · 8 页

青空文庫

そして……片足だけのところをみると、或は一本足か跛足か、そういった不具者かも知れない。……然し、ぶら下る足はみんな片足にきまってる。伝説の中だって……。夜遅く、ぶらりと馬の足が天からぶら下る。それが、四本の足でなくていつも一本きりだ。……だが、人の足がぶら下るのは、まだ聞いたことがない。二十世紀のハイカラなお化かな。汽車の中とは振ってる……。

私はもううとうととしていたらしい。先刻の足がばかに大きなものとなって、妖怪味を具えていった。薄暗い電燈、カーテンの揺れ、車輪の響き、何かしら途方もない夜汽車内の幻想、そんなものが私を夢現の中に誘っていった。

どれくらい時間がたったか覚えない。或は一寝入した後かも知れなかった。私はふと眼を覚した。閉め忘れたカーテンの隙間から、ぼんやりした明りがさしていた。そのカーテンを閉めようと思って、一寸上半身を起しかけた時、何気なく上の方を見ると、上の段のカーテンの裾から、先刻の片足が、ぶらりと下っていた。

私は急にかっとなった。失礼なと思った。大きい声を出して、上の寝台の縁を叩いた。

「危いですよ……足が落ちかかってるじゃありませんか……足が……足が落ちかかっていますよ。