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ぐんようそ

軍用鼠

海野 十三

「新青年」博文館、1937(昭和12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,659 字 · 37 页

青空文庫

梅野十伍はペンを下に置いて、湯呑茶碗の中の冷えたる茶を一口ゴクリと飲んだ。

これは探偵小説であろうかどうか。

密輸入はたしかに探偵小説の題材になるが、今書いた小説は、探偵小説というよりも落語の方に近い。つまりそのヤマは、税関吏ワイトマンが籠の中の鼠の数ばかりに気を取られていたこと、それから犯人レッドが至極無造作に員数外の鼠を籠から除いて、ワイトマンに疑いを抱かせる遑もなく至極自然にそれをポケットに収いこんだことにある。これはナンセンスである。

ただ、税関吏ワイトマンが愛用する丸卓子の上を汚したことは、なんだか重要な探偵材料を提供したようでありながらその実わずかにワイトマンが員数外の鼠を思い出す虞あるのに対し、彼の精神を錯乱させる材料に使われたに過ぎない。事実ワイトマンは憤怒し、員数外の鼠がレッドのポケットのなかに入ったまま密輸入されるのに気を使う余裕がなかったのである。でも「愛用の卓子を汚す」ということは、なかなかハデな伏線材料であるから、そういうハデな材料はもっとハデに生かさなければ面白くない。況んや、この全篇を通じて探偵小説らしい伏線は、この卓子を汚すということだけなのであるから、それが生きんようでは探偵小説にならない。