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ぐんようそ
軍用鼠
海野 十三
「新青年」博文館、1937(昭和12)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,659 字 · 37 页
しかるにこの暁方までに、なにがなんでも一篇の探偵小説を書き上げてしまわねばならぬというのであるから、これは如何に意気銷沈しまいと思っても銷沈しないわけにはゆかないのであった。
そんなことを考えているうちにも、時計の針は馬鹿正直にドンドン廻ってゆき、やがて来る暁までの余裕がズンズン短くなってゆくのだった。なにか早く、書くべき題材を考えつかないことには、一体これはどういうことになるんだ。時刻は午前二時三十分正に丑満すぎとはなった。あたりはいよいよシーンと更け渡って――イヤ只今、天井を鼠がゴトゴト走りだした。シーンと更け渡っての文句は取消しである。
このとき梅野十伍は、憎々しげなるうわ目をつかって鼠の走る天井板を睨みつけていたが、そのうちに何うしたものか懐中からヌッと片手を出して、
「うむ、済まん」
といいながら、天井裏のかたを伏し拝んだのであった。
彼は急に元気づいて、原稿用紙を手許へ引きよせ、ペンを取り上げた。いよいよなにか考えついて書くらしい。
彼はまず、原稿用紙の欄に「1」と大書した。それは原稿の第一頁たることを示すものであった。彼はこのノンブルを餡パンのような大きな文字で書くことが好きであった。