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ぐんようそ
軍用鼠
海野 十三
「新青年」博文館、1937(昭和12)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,659 字 · 37 页
と書いたが、彼はなぜこんなことを考えついたのだろうと不審をうった。
さっき鼠が天井裏で暴れはじめたのを、時にとっての福の神として、鼠の話などを原稿に書きだした件はよく分る。しかしその鼠の話を、そんな風に主人公の顔が鼠に似ているという話にまで持っていったについては、何かワケがなくてはならぬ。凡そワケのない結果はないのである。そのモチーフは如何なる筋道を通って発生したのであろう。
ひょっとすると、これは梅野十伍自身は自覚しないのに彼の顔が鼠に似ていて、それでその潜在意識が彼にこんな筋を作らせたのではなかろうか。そうなると彼は急に気がかりになってきた。その疑惑をハッキリさせなければ気持が悪かった。
彼は時計がもう午前三時になっているのに気がつかないで側らの棚から手文庫を下ろした。その中には円い大きな凹面鏡が、むきだしのまま入っているのである。彼はそれに顔を写してみる気で、手文庫の蓋に手をかけたが――ちょっと待て!
明るいスタンドの下とは云え、この深夜に唯一人起きていて、自分の顔を凹面鏡に写してみて、それで間違いはないであろうか。もしその鏡の底に、彼のテラテラした赭ら顔が写り出せばいいが、万一まかり違って、その鏡の底に顔一面毛むくじゃらの大きな鼠の顔がうつっていたとしたら、これは一体どうなるのだろうか。