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ぐんようそ

軍用鼠

海野 十三

「新青年」博文館、1937(昭和12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,659 字 · 37 页

青空文庫

そう思うと、急に彼の手はブルブルと慄えはじめた。手文庫の蓋がカタカタと鳴りだした。彼の背筋を、氷の刃のように冷いものがスーッと通りすぎた。彼は開けようと思った手文庫の蓋を、今度は開けまいとして一生懸命に抑えつけた。それでもジリジリと恐怖は、彼の両腕を匍いあがってくるのであった。彼はもうすっかり怯えてしまって、とうとう横手の窓をポーンと明けると、鏡を手文庫ごと窓外に放りだした。闇の中に冷雨にそぼぬれていた熊笹がガサッと、人間を袈裟がけに切ったような無気味な音を立てた。彼は慌てて窓を締めてカーテンを素早く引いた。

机の前の時計は午前三時を大分廻っていた。彼はまた煙草を口に咥え、今度は原稿用紙の上に頬杖をついて考えこんだ。

さっきの妖婆アダムウイッチの話をもっと書くのだったらそれから先に或るアイデアがないでもなかった。――すなわち、作中の主人公梅田十八が遂に意を決して妖婆を殺そうとする。城内から大きな沢庵石――は、ちと可笑しいから、大きな石臼を見つけてきて、これを目の上よりも高くあげて、寝台に睡る妖婆の頭の上にドーンとうちつける。ギャーッと一声放ったが、この世の別れ、妖婆の呼吸が絶えると、梅田十八の姿は一寸ぐらいの小さな二十日鼠の姿となって――一寸はすこし短かすぎるかな、とにかく正確なところは後で索引付動物