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かるいざわ
軽井沢
寺田 寅彦
「経済往来」1933年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,190 字 · 13 页
ゴルフ場からニューグランドへの、清流に沿うてゆるやかにうねり行く山腹の道路は、どこか日本ばなれのした景色である。樺や栃や厚朴や板谷などの健やかな大木のこんもり茂った下道を、歩いている人影も自動車の往来もまれである。自転車に乗った御用聞きが西洋婦人をよけようとしてぬかるみにすべってころんだ。
至るところでうぐいすが鳴く。もしか、うぐいすの鳴き声のきらいな人があったら、一日もこのへんにはいられないであろう。しかしだれでもうぐいすの声を楽しまない人はない。思うにわれわれの遠い祖先が山林の中をさまよい歩いて、生きるために天然とたたかっていたころから、人間はだんだんにうぐいすに教育されて来たものと思われる。うぐいすの鳴くころになると、山野は緑におおわれ、いろいろの木の実、草の実がみのり、肌を刺す寒い風も吹かなくなるということを教えられたに相違ない。うぐいすの声がきらいな人などありようはない。
星野温泉の宿の池に毎朝水鶏が来て鳴く。こぶし大の石ころを一秒に三四ぐらいのテンポで続けざまにたたき合わせるような音である。それが、毎朝東の空がわずかに白みかけるころにはきまってたたきに来る。