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のうそん

農村

宮本 百合子

「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页

青空文庫

人の声も犬の声もしない。狐の提灯が田の中を通ると云うのも此頃である。雪でも降れば、雪見舞の人々が通りも仕様けれ共、雪降り前の、何となくじめじめした、雨勝ちの今頃は皆が皆こもって居るので、人通りと云うものはまるでないのである。

町からの魚屋も大方は来ない。辛い鮭と干物とが有る時は良い方である。私共は毎日野菜で暮して居る。牛乳の有るのを幸、それで煮たりして少しは味の変ったものもたべて居るものの、魚のなまか、牛の焼いたのがたまらなく欲しい事がある。そう云う時に折よく東京から送って呉れる、魚の味噌づけ、「一しお」の嬉しさは一月に一度か二度ほか魚のたべられない処へ行ったものでなければ分らない事であろう。外へ出てする事はなし、農民は、冬が一年中の食時である。正月にならないでも餅をつく。東京の様に四角い薄平ったいものにするのではなく、臼から出したまんま蒸すのでまとまりのつかないデロッとした形恰になって居る。それを手で千切って、餡の中や汁の中へ入れる。あまりは鍋などの中へ千切って入れて置くのである。見た所は、出来上りでも東京のよりは倍も倍も不味まずしい形をして居るけれ共味は却って良い位である。