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ちかごろのわだい

近頃の話題

宮本 百合子

「東京日日新聞」1937(昭和12)年7月17~21日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,932 字 · 14 页

青空文庫

来た。

カルメン夫人が、技術的には先生であり良人であるワインガルトナーの道を踏んで進んで来ているのは当然であろう。棒の扱いかたや、左手の拇指と小指とに独得な力のこめかたをして、オーケストラに呼びかけてゆく癖など、ワインガルトナーそっくりである。けれども、専門的な言葉ではああいうのを何というか、カルメン夫人はオーケストラから各部分の音をそれぞれの独自的な意味で引き出して来るという印象を与えず、分析され切れない音響のかたまりを次から次へ並べて行く感じである。ワインガルトナーで縦に切りこんで行っているところをカルメン夫人の方は棒は同じように動かしながら、横へ、音の面を撫で、圧えているようなのである。しまりがない。善良であるが立体性が足りず、音のつかまえかたが漠然としている。

ヨーロッパでも、婦人の指揮者は二人か三人しかいないそうである。そういう点からも私はカルメン夫人の指揮から受けた印象でいろいろ女の芸術と生活とを考えさせられた。

カルメン夫人はいかにも人柄のよい、教養のあるひとらしく、『婦人公論』などに書いた文章などよむと、むしろ音楽を文学的に、哲学的に感じすぎているようなところさえうかがわれる。