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ついおく
追憶
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页
それに私の性質上母はその様な特殊な事件はなるたけ知らないですむ様にばかりさせて来たので、生れて始めて私は死ぬと云う事に会わせられたのであった。
私は妙にそわそわして落着けなかった。
にわかに人の出入の多くなった台所へ行って追いやられたり表座敷へ行って叱られたりして居るうちに、門の方にガヤガヤと人声が仕出すと、奥から出て来た母は其処いらをうろうろして居た私に、
「其処へ入っておいで。
見ちゃあいけませんよ、
きっとですよ。
と玄関わきの小部屋を指さしたまませわしそうに走って行った。
私は云われる通りその部屋に入って襖を閉めると間もなく何かが玄関の土間に下された様な気合がした。
すると、多勢の足音が入り乱れて大変重いものでも運ぶ様な物音が私の居るすぐ前に襖一つ越して響くと、急に私は震える程の恐れにとりつかれた。
「死んだお叔父ちゃんが来たのだ。
何とも云えず物凄い感じが私の目の前を飛び違った。両手を握り合わせ瞳を大きくして息をつめて居る間に音はしずまって、母が迎に来てくれた時には家中は啜泣きと悲しい囁きに満たされて居た。
だまって手を引かれて私は屏風の円くなって居る前に座った。