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たいほしゅぎしゃ

退歩主義者

坂口 安吾

「月刊読売 夏期臨時増刊号」1949(昭和24)年7月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,703 字 · 20 页

青空文庫

これは芝居ではない。数名の座員に襟クビをとって舞台裏へひきずりこまれても、オ猿サンの姿勢をくずすことが出来ない始末である。

「ヤイ、この野郎。ふざけたマネをしやがる。一座の面目まるつぶれじキないか。色キチガイめ」

若い座員がコッピドク馬吉に往復ビンタをくらわせた。さすがに品川一平はゲラゲラ笑っていた。場末の役者ともなれば、根はそれだけのものだと心得ているからである。馬吉には、これが泌々有難かったのである。

「兄貴は、さすがだ」

馬吉はテレかくしに、英雄らしく振舞って、一平に握手をもとめたが、

「よせやい。ふざけるな」

と、つきとばされてしまった。

「なんだい。ひでえな。ゲラ/\笑っていたくせに、感謝のマゴコロをヒレキすれば、つきとばすなんて、面白くないよ。オレだって、あんなことはしたくないよ。然し、あのほかに、やるとすりゃ、泥棒か人殺しじゃないか。男だって、パン助もやりたくなろうじゃないか」

「バカ野郎。舞台の上からチョイトなんてパン助いるかい」

「あんなこといってらア。天下の往来の方が、なお、よくねえよ」

「クビだア。出て行け」

「慌てるなよ。こっちの都合だってあるじゃないか。