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たいほしゅぎしゃ
退歩主義者
「月刊読売 夏期臨時増刊号」1949(昭和24)年7月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,703 字 · 20 页
戦争にもまれて育った馬吉であるから、真に美なる人間性に認識のあやまることはない。
彼が退歩主義というものを深く感ずるに至ったのはこの時で、さればこそ、天命に殉ずる一兵士の心得をもって聟となったのである。盛大な婚礼であった。
彼の花嫁は猪八戒に似た面白い顔立であった。カラダも小肥りで、ちょッと鳩胸でデッ尻で、顔立を裏切らないところに良さがある。然し意外なところに難所があった。田舎育ちの一人娘で甘ったれて育ったせいで、彼女は終戦を迎えるまで歯をみがいたことがないのである。終戦以来、セップン映画というものを見て、彼女はキモをつぶし、にわかに歯をみがくことを覚えたが、もう、おそい。一本残らずムシ歯である。歯をみがくと神経を刺戟して歯痛を起す。苦しいけれども、女の一念、我慢に我慢を重ねた。聟がきまってみれば、もう、しめたもの。なにも苦しんで歯をみがくことはない。
馬吉は驚いた。花嫁が口をあけると、一尺はなれていても、卒倒しそうになる。退歩主義にも限界があって、人間が豚の申し子とチギリを結ぶということは不可能であるとキモに銘じたのである。
そこで彼は仮病を使って一室にこもり、ウンチクを傾けてアチャラカの脚本を書いた。