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とじょうのはんにん
途上の犯人
浜尾 四郎
「犯罪科学」1930(昭和5)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,477 字 · 38 页
元来私は子供の時から汽車に乗って車窓の景色を眺めるのが好きだったが、その趣味は今でも抜けない。それに自宅に居る時は決して勉強家ではないが濫書濫読の癖があるのでたまに汽車旅行などする時は、何も持たず、ぼんやりと車外の景色に見入って居るのを常としている。それが為今日も何も手にせずに乗り込んだのだ。
もっとも東京駅で新聞を二、三買ったが大森を通過する頃にはそれも読んでしまったので、もはや何も見入るものがない。仕方がないから、変な男を気にしながらも車外にうつり行く晩春の景色に見入って居た。
いつもなら、こうして居てもそれにうっとりとなってしまうか、でなければ又何か面白いストーリーの題材が頭に浮かぶのだが、さっきからあの男の事が妙に頭にこびりついてどうしても離れない。
今にも後から何か云いかけられはしないかと、こんな気がしてどうしても落ちついた心持になれないのである。
列車は第三十三列車名古屋行、普通車で東京駅を出たのが午前十一時三十五分だった。午後一時すぎ漸く国府津についたので私は弁当を買うと同時に、手当り次第に、売子から雑誌を二、三冊買い求めた。そうして箱根のトンネルをくぐっている頃には盛んにその本をあけて見たのだが、しかし、どうしてもある一つの作に身を入れる事が出来なかった。