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うんめいろんしゃ

運命論者

国木田 独歩

「山比古 第十號」1903(明治36)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,357 字 · 34 页

青空文庫

『御免なさい、御免なさい。』

『馬鹿! 大馬鹿者! 誰が謝罪れと言った。十二にもなって男の癖に直ぐ泣く。』

怒鳴られたので僕は喫驚して泣きながら父の顔を見て居ると、父も暫くは黙って熟と僕の顔を見て居ましたが、急に涙含んで、

『泣んでも可え、最早乃父も問わんから、サア奥へ帰るが可え、』と優しく言った其言葉は少ないが、慈愛に満て居たのです。

其後でした、父が僕のことを余り言わなくなったのは。けれども又其後でした僕の心の底に一片の雲影の沈んだのは。運命の怪しき鬼が其爪を僕の心に打込んだのは実に此時です。

僕は父の言葉が気になって堪りませんでした。これも普通の小供なら間もなく忘れて了っただろうと思いますが、僕は忘れる処か、間がな隙がな、何故父は彼のような事を問うたのか、父が斯くまでに狼狽した処を見ると、余程の大事であろうと、少年心に色々と考えて、そして其大事は僕の身の上に関することだと信ずるようになりました。

何故でしょう。僕は今でも不思議に思って居るのです。何故父の問うたことが僕の身の上のことと自分で信ずるに至ったでしょう。

暗黒に住みなれたものは、能く暗黒に物を見ると同じ事で、不自然なる境に置れたる少年は何時しか其暗き不自然の底に蔭んで居る黒点を認めることが出来たのだろうと思います。