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へんろ
遍路
斎藤 茂吉
「時事新報」1928(昭和3)年2月10日~13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,864 字 · 6 页
実際日本は末世になっても、こういう種類の人間もいるのである。遍路は無論、罪を犯して逃げまわっている者などではなかった。遍路のはいている護謨底の足袋を褒めると「どうしまして、これは草鞋よりか倍も草臥れる。ただ草鞋では金が要って敵いましねえから」というのであった。これは大正十四年八月七日のことである。
一夜明けて、僕らは小口の宿を立って小雲取の峰越をし、熊野本宮に出ようというのである。そこでまた先達を新規に雇った。川を渡ったりしてそろそろのぼりになりかけると、細い雨が降って来た。僕らはしばし休んで合羽を身に著はじめた。その時遥向うの峠を人が一人のぼって行くのが見える。やはり此方の道は今でも通る者がいるらしいなどと話合いながら息を切らし切らし上って行った。
三十分もかかって、ようやく一つの坂をのぼりつめるとそこで一段落がつく。そこに一人の遍路が休んでいた。さっきの雨が既にあがっているので遍路は茣蓙を敷いてそのうえで刻煙草を吸っていた。見晴らしが好く、雲がしきりに動いている山々も眼下になり、その間を川が流れて、そこの川原に牛のいるのなども見えている。
僕らもそこで暫時休んだ。