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かとにん

過渡人

豊島 与志雄

「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页

青空文庫

俺がやった学問から云っても、緊と物を握る重圧は力だ、力はエネルギーだ、エネルギーは熱だ。どうも俺の魂の熱が冷却してきたのらしい。従って心の活動が減じてきたのだ。これも俺の得た学問からでも説明がつく。吾々が光りと感じ熱と感ずるものは、結局おしつむれば電子の運動だ。で俺が今自分の心に熱が少くなったと感ずるのは、この俺を組織している電子に運動が少くなったことになる。即ち俺の内心の活動が減じてきたのだ。然し内心と云い魂と云い自発的の生命というようなものは俺には明瞭に分らない、ただそれを感ずるだけだ。俺は自分の魂に活動が減退してきたことを感ずる。

然しそれは何も俺の生活が安価になったことを意味するものではない。反対に、俺の生活に落ち付きが出来、充実が出来たことを示すものであるかも知れない。俺はもう馬鹿げた熱情や野心に駆られることなしに、如何なることが起ろうとじっとどっしりして居られる位にはなっている。だが……。

工学士の肩書を得る頃まで、俺はずっと東京に居て一仕事するつもりだった。が父の立派な意気に対する感激とこの町が東京から程遠からぬ処に在るということのために、俺は此処に帰って来たのであった。