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かとにん

過渡人

豊島 与志雄

「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页

青空文庫

四

四

長男の秀男が春の休みの旅から帰って来たのは四月に入ってからであった。彼は東京の高等学校に入ってから初めはよく土曜から日曜にかけて泊りに来たものだが、後には用事がない限りは休暇にしか帰って来なくなった。そしてその休暇には彼は旅をすることが次第に多くなった。

「若い者は自由に飛び廻るがいい。」と矢島さんは思った。「そして自由に種々なものを取り入れるがいい。」

然し矢島さんは、秀男が帰って来る度毎に何かしら新らしいものを持っているのを感じた、そして新らしい世界が秀男のうちに醸されつつあるのを。

矢島さんは、旅から帰って来た秀男の頬の日に焼けたのを見た。それから暫く剃刀を当てない太い眉毛を見た。

「大変丈夫そうになったね。」と矢島さんは云った。

「ええ、旅するのが一番身体のためにいいようです、そしてまた精神のためにも。何だか凡てが、自分の世界が広々として来ます。」

「そうだろう。俺も少し旅行でもするかな。」

「でもお父さんは何時もお忙しそうですね。」

「なにそうでもないがね。」と矢島さんは力無い調子で答えた。

「お隙の時何処か一緒に行ってみましょうか。」

「ああ行こう。