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かとにん

過渡人

豊島 与志雄

「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页

青空文庫

」

然し二人共決して一緒に旅することは恐らく無いだろうということを知っていた。二人の心から心へ通ずる交流は何時の間にか絶えていた。然しそれは誰の罪でもない。――

「其処に何かの罪を認むるならば、」と秀男は思った、「親子ということが永久の矛盾である。」そして秀男は父の眼から自分の眼をそらした。

秀男は自分の世界を自分の心のうちにしまっておいた。それは子が親に対する微妙な謙譲である。そしてその謙譲を感ずる時、矢島さんは空虚な静安を身に覚えた。その静安が秀男に反映する。……「一緒に旅しよう」と彼等は云う。彼等は親と子である。

然し矢島さんは秀男に対してある漠然たる期待を持っていた。それが何であるかは矢島さん自身も知らなかった。

矢島さんは毎日急いで家に帰って来た。

「おい何でも望みの御馳走をしてやるから云ってみい。」と彼は秀男に云った。

秀男はただ安らかな笑みを洩らした。

「あなたのは駄目ですよ。何時もお流れになるんだから。」とそれをきいて常子が云った。

「それよりか皆でゆっくり東京へでも遊びに行こうじゃありませんか。」

「よく東京に飽かない人だね。」

「いや実際東京に飽きるということはありませんよ。