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かとにん

過渡人

豊島 与志雄

「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页

青空文庫

と矢島さんは我知らず心の中でくり返した。そしてそれに気がついた時、云い知れぬ不安に襲われた。

「然し若え者あ贅沢でいけません。娘がやって来るといつも穢ねえっちゃあ叱られますだ。」

「そう君にはいい娘があるそうだね。」

「なに仕方のねえ女でがさあ。……打たれた位では平気でしゃあしゃあしています。いえそう度々打つんじゃねえんでがすが、わっちの方も年とって力が無くなったんでさあ。へへへ、この頃ああべこべにやられますだ。年とって来ると若え者には敵わねえです。……でも感心に時々小使位は送ってくれます。何をしてるんだか尋ねもしましねえが、料理屋に居るんだとか云ってるですから、何れ碌なこたあしてねえでしょう。もういい婆あになりやがって、まだずうずうしくしてまさあ。」

「よく君はそれで淋しくないんだね。」

「へへへもうこうなっちゃあ、淋しい位は何でもねえです。気楽が一番の薬ですから。」

矢島さんはまたぐるりと部屋の中を見廻した。それから突然云った。

「やあ邪魔をしたね。」

「いえとんでもねえことです。」そして平田は矢島さんの顔色を窺った。「つまらねえことを饒舌って、御免下さい。