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みちのうえでみたはなし

道の上で見た話

小川 未明

「こどもペン 3巻4号」1949(昭和24)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,679 字 · 8 页

青空文庫

それは、はじめて見る、悲惨の光景ではなかった。何年か前にも、どこかで見たことがあるような記憶がしました。やせこけた、あばら骨の出た馬が、全身に水をあびたようにあせにぬれて、重い車をひきかねているのでした。

それをむりに引かせようとする馬子も、かみはみだれ、顔から、胸へかけて、やはりあせがながれ、日にやけたひふは、赤銅色をしていました。そして、身につけている、みじかい着物は、やぶれていました。

ぼくは、馬の身にもなれば、男のたちばにもなって考えたのです。なんという、矛盾した、いたましい事実でしょうか。男に、馬の苦しみをわからぬはずがない。ただ、この道をトラックや、自転車や自動車が、たえず、往来するだけ、男を、いっそういらだたせたのでした。

馬子は、はらだちまぎれに、あらあらしく、たづなを引くと、馬は、頭を上下にふって、反抗の意をしめし、前足に力をいれて、大地へしがみつこうとしました。そのたび、ほこりでよごれたたてがみが、雲のように波うちました。集まった人々は遠まきして、見物しました。自分に関係のないことは、たいていの人は、冷淡なものです。

このとき、どこか、町の喫茶店から、レコードでならす、あまったるい歌声が流れてきました。