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どうかんやま
道灌山
宮本 百合子
「婦人」1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页
寺の方がすこし高みになっていて、牛のいる牧場はかなり下に見おろせた。今思えばいかにも市中の牧場らしく、ただ平地に柵をめぐらされているだけのその牧場だったが、そこに、いつも四五頭の乳牛が出ていた。白と飴色のまだら、白黒のまだら。ちょっとおしりのところと角のところだけ黒くて、あとは白いの。子供たちは竹垣のやぶれに並んで、牛を眺めたまま、ほとんど口をきかなかった。あんまり牛はおもしろかったし、いくらかこわくもあった。牛たちは、おだやかで暖い春の光をあびながら、かたまっていると思うと、そのうちの一頭がゆるりとかたまりからはなれて、歩きだす。するとまたほかの一頭も動き出して、かたまりはほぐれ、あっちに一頭こっちに一頭と見られる。
かたまりがほどけはじめて、一頭の牛がこっちを向いて重そうに、ゆっくり歩いて来ると、竹垣のこちら側で見ている三人の子供らは、緊張の極に達した。身動きできないようになって、歩いて来る乳牛の大きさとこわさと畏敬とをごたまぜに感じるのだったが、多分牧場のそこの側は、日かげか何かで余り牛どもの気に入りの場所でなかったのだろう、決して竹垣の下まで近く牛のよって来たことはなかった。