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みちづれ
道連
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页
」
「そうだよ。」
「まだ遠いんでしょうか。」
「もうじきだ。」
素気ない返辞ではあったが、まさしく人間の声音だったので、僕は安心するとともに元気づいて、すたすたと通り越した。その僕をやり過しながら、じろりと見向いた彼の眼が、闇の中に異様に光ったようだった。が僕は気にも留めないで、とっとっと歩いてゆくと、後ろから空の車が、小石まじりの道にがらがらついてくる。早く歩けば歩くほど、同じ早さでがらがらついてくる。それがやがて気になりだして、せめて話でもしようと思って、僕は足を少しゆるめながら、それでも何だか後を振向けないで、真直を向いたまま、友人の姓を名指して知ってるかと尋ねてみた。
「知らねえよ。」
ぶっきら棒に云いすてて、後はただ空車の音だけが、闇夜のしいんとした中に響いてくる。僕はまた云ってみた。
「よく闇の夜に燈火もつけないで車が引けますね。」
「馴れてるから引けるだよ。」
それっきりもう話もなくて、二人は長い間黙って歩いていった。空車の音だけが、がらがらがらがら呆けた音を立てている。聞き馴るれば馴るるほど気にかかってくる音だった。この男は一体何だろう、とそんなことを僕は考え初めた。