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みちづれ
道連
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页
もう安心だと思うと、急に気がゆるんだせいか、足が重くて仕方がなくなった。
ふと気がついて、彼女の方はと思って振向くと、不思議なことには、現在自分が腕を抱えて連れて歩いてた筈の彼女が、影も形も見えなかった。おや、と思ったとたんに、ぞーっと髪の毛が逆立った。そして僕はもう夢中になって駆け出した。
何が仕合せになるか分らないものだ。夢中に駆けたために僕は、危く乗り後れる所だった列車に間に合った。それにしても、あの女のことはいくら考えても今以て分らない。まさか狐につままれた訳でもないだろうし……。
なに、全く狐につままれたような話だって、それはそうには違いないが、僕に残ってる印象はそんな他愛もないものではないんだ。がまあそんなことはいいや、こんどはもっと変梃なのを聞かしてあげよう。一寸煙草を一服吸ってから……。
五
これはつい二三年前のことなんだ。僕は変に生活に退屈を覚えだして、毎日こつこつとつまらない仕事をしてるのが、味気ない生き甲斐のないことのように思えて、何かこうぱっとした明るい異常なものがほしくなっていた。
僕の二階の窓から、青桐の茂み越しに、すぐ隣家の座敷が見下せた。