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みちづれ

道連

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页

青空文庫

前晩そこの家で余り好遇されたので多少極りが悪くなった、というような気持もあったらしいし、一人でよその家に泊ったために父母から遠く離れて心細くなった、というような気持もあったらしいし……其他、僕は今はっきりとは覚えていないが、兎に角無性に父母の所へ帰りたくなって、とうとう決心をし実行をしてしまったのだ。親戚へは無断のままで、町の出外れで提灯を一つ買って、一里の田圃道を一人で帰っていった。

親戚の人達は、いくら待っても僕が帰って来ないものだから、大変心配しだして、わざわざ学校へ聞きに行き、それからその晩のうちに、僕の家まで使の人を寄来した。そして僕は後で、父と学校の教師とからひどく叱られたものだ。

が、そんなことはどうでもいい。僕はたった一人で提灯をつけて一里の道を帰っていった。もう日はとっぷりと暮れて、月の光が冴えきっていた。月夜に提灯をつけるというのは、一寸聞いたら可笑しいか知らないが、田舎の人は夜道をする時には、どんな明るい月夜にも必ず提灯をつけるものだ。森の中にはいったり月が曇ったりする時の用心のためもあろうが、それよりも、そのぽつりとした蝋燭の光が、足許二三尺だけを輝らす弱々しい蝋燭の光が、何だかこう自分を導いてくれる光明のように思えるからだ。