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ちがうへいはちろう

違う平八郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页

青空文庫

堅く決心していた彼は、金崎城大手掛りに詰め、合戦の到るや遅しと待構えていたが、手筒の城を攻破って木下、柴田勢の合すると共に、総攻を開始するその陣頭へ、猛然と馬を煽って突進したのである。――それまではよかった。ところが城中から浅倉景恒が手勢二千を率いて斬って出るや、忽ち凄じい白兵戦が展開し、平八郎はその渦の中へ巻込まれながら、

「やあやあ、我こそは尾張国にさる者ありと知られたる本多平八郎……」

と声高く名乗りかけた。

――すると敵の人数はどよみあがって、

「おお本多平八郎とは好き敵ぞ」

「我こそ見参」

「我こそ相手にならん」

口々に喚きながら、兜武者七八騎を先頭に二十騎あまりがだあっと寄せて来た。――その凄じいこと、平八郎は慌てて馬上に伸上り、槍を高くあげながら、

「やあ急くな急くな、本多平八郎には相違ないが、あの有名な鬼平八郎ではないぞ、豪傑平八郎ではなく別の平八郎だ。唯の本多平八郎だぞ、間違って後悔するな!」

合戦の最中に、但書付きの名乗をあげるとは奇天裂である。――一所懸命に叫んだが、分る道理はない。むやみに「本多平八郎鬼の平八郎」と云うように聞えるから、敵軍の名ある勇者たちは孰れも相手を捨てて、