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ちがうへいはちろう

違う平八郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页

青空文庫

「心得たり本多平八郎、見参せん」

「退くな平八郎」

「我こそ相手ぞ」

先を争って殺到する。

――駄目だ、彼等は間違えている。

そう思った刹那! 平八郎は骨の髄から寒気だち、夢中で馬首を廻すと遮二無二そこから逃げだして了った。――そのまま彼の姿は戦場から消えたのである。

金崎城が陥落して、戦捷の馬寄が行われた時、先ず信長が彼のいないことを発見した。見かけた者はないかと調べさせると、

「総攻の時たしかに先陣を馳駆していました」

と云う者が二三人あったし、また、

「いや、なんでも拙者は豪傑の平八郎ではない、違う平八郎、唯の平八郎と頻に断っているのを見かけました」

と申出た者がある。

「唯の平八郎か、わははははは」

周囲にどっと笑声があがった。

――信長も苦笑し乍ら、

「遖れな臆病振りだな、またその辺に隠れているのであろう、誰か捜して参れ、――もう大丈夫だと云ってな」

再び廻りに笑声が起った。

一刻ほど後、丹羽長秀の手の者が、戦場からずっと離れた藪の中に、馬の首へ獅噛みついて震えている平八郎を発見して伴戻った。信長は――悄然として現われた平八郎を見ると床几から立上って、