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ちがうへいはちろう

違う平八郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页

青空文庫

――二十一か二であろう、痩形ではあるが骨組の逞しい体つきで、髭の剃跡の青々とした、眼の大きな、凛とした面魂を持っているが、斯うした晴れの席には馴れぬとみえて、どうやらぶるぶると胴震いをしている様子だった。

「――申上げます」

五郎左衛門は妙な含笑いをしながら、

「これは五郎左が伊勢攻めの前に召抱えました者でございます、恐れながらお言葉を賜わりまするよう」

「どうするのだ」

「先ず、お言葉を……」

信長は盃を手にしたまま、含笑いをしている五郎左から若者の方へ眼を移した。

「余が信長じゃ、許す。面を挙げい」

「は、――」

「名は何と云うか」

若者は平伏しながら、

「お側まで申上げます、本……本多平――」

「直答で宜い、判きりと申せ」

「は、――」

若者はさっと顔を蒼くしながら、

「本多、本多平八郎と申します」

「なに本多平八郎とな?」

信長は眼を瞠った。

――本多平八郎と云えば酒井、榊原、井伊と並んで徳川家の四天王と呼ばれ、当時天下に隠れなき豪雄の士である。列座の人々も驚いて一斉に眼を向けた。若者はその様子にひどく慌て、急きこんで吃り乍ら、

「否え、否え、それが、あれでございます、否やあれでは無いのでございます」