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ちがうへいはちろう

違う平八郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页

青空文庫

二

若者が驚いて五郎左衛門の言葉を遮った。然し此方は構わずに膝を進めた。

二

「拙者の持場は灘野口でございましたが、合戦が終って馬を戻して参りますと、柏の木戸の空壕の中に、頭から枯草を被って震えている者がございました。――敵か味方か分らず、二度三度声をかけますとようやく出て来ましたのがこれで、

――どうしたのだ。

と訊きますと、吃驚したように四辺を見廻しながら、

――もう皆行きましたか。

と申します、もうみんな行って了いましたかと……」

「何だそれは、さっぱり分らんぞ」

「拙者にも解せませんでした、熟く訊ねてみますと、もう合戦の初めに胆を潰して、空壕の中に隠れていたのだそうでございます」

またしてもどっと笑声があがった。

「無類の臆病だな」

信長は盃を措いて云った。

「平八郎、顔を見せい」

「……はっ」

「許す、余の眼を熟く見るのだ」

平八郎は額にじっとり汗を滲ませながら、恐る恐るその眼をあげた、――信長は眦の切上った鋭い眼で、暫くのあいだ射抜くように若者の顔を覓めていたが、やがて、

「――五郎左」

と振返って云った。

「この平八郎を余に呉れぬか」

「それはまかり成りませぬ」