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ちがうへいはちろう
違う平八郎
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页
「左様さ、戦場は武士の屍を曝すべきところと、幼少の頃より覚悟する我等には、臆病未練の仔細を聞いても分る筈はあるまい、――お邪魔を仕ったな、違う方の平八郎殿」
声高く笑いながら二人は去って行った。
祝宴の席に次ぐこの出来事が、城中に於ける平八郎の位置を決定して了った。それ以来というものは取代え引代え同じような問答に悩まされるのである。若し彼がもっと世馴れているか、有触れた勇士豪傑の類であったら、こんな非運を打開するのは造作もないことだったろう。けれど彼の心はもっと純真であった。つまらぬ俗物たちに嘲弄されるほど隙だらけな真実をもっていたのだ。
大庭の梅林が満開を過ぎた一日、お庭廻りをしていた平八郎は、泉亭の下のところで五六名のお側小姓たちに取巻かれた。――織田の荒小姓と云われるくらいで、年はまだ十五六から七八までだが腕節の強い、鼻息の荒い連中である。
「ああ暫く、暫く待たれい」
少年のくせに頭から横柄なのは、云うまでもなく君寵をかさに衣ているのだ。
「今度新しくお庭廻りに召立てられたのは貴殿ではないか」
「如何にも――」
平八郎は又かと思った。その顔を小意地の悪い眼で覓めながら、年嵩の一人がのし掛るような調子で云った。