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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

死体はそろそろフランしていたが、死後二週間ぐらいだろうという。ちょうど花見のころに殺された死体なのだ。そう云えば、寒吉は花見以来サクラの姿を見たことがない。もっとも、あれ以来、三高のトラックがでかけたあとでちょッと留守宅を訪ねるだけのことだから、運動員を見かけることが少かったせいもあった。

しかし、あのサクラ男が行方不明なら、誰かが騒ぎだしそうなものだが、それもないのである。寒吉は何気ない様子で三高木工所へ立寄り、働いている若い男にきいた。

「選挙で従業員がへったじゃないか」

「へりやしないよ。元のままだ」

「四十がらみの人相のわるいのが居ないじゃないか」

「四十がらみ? それはここの大将だろう」

「大将じゃないよ」

「四十がらみの職人なんて居るかい。ずッと若いのばかりだ」

「選挙のときに居たじゃないか」

「選挙のときは休業よ」

「選挙の仕事をしていたぜ」

「選挙の時にはいろんなのが手伝いにくらアな」

「花見の演説のときサクラの男がいたろう」

「知らねえよ、そんなの。選挙の話なんぞはクソ面白くもねえ。よしてくれ」

腹をたててしまった。わざと隠しているような様子もないが、総じて選挙の話をしたがらないようだ。