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せんきょさつじんじけん
選挙殺人事件
「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页
先方には何も起らないが、寒吉の方は多忙である。
「ネエ、チョイト。遊んで行かない?」
「いま、仕事だよ」
「何してんのさ。ギャングかい? アンタァ」
「アイビキだよ」
「ワタシというものがありながら。さア、承知しないよ」
手をとり足とり、ズルズルとひきこまれる。必死にふり払って、そこをとびだす。次の隠れ場で、また、やられる。どこへ身を隠しても、必ずやられる。おかげで監視は甚だ不充分であったが、彼の目にふれた限りでは全く何事も起らずに三高の演説は終ったのである。
次にトラックが止ったところはお花見の名所だ。晴天温暖の気侯にめぐまれて、お花見は出盛り。そのド真ン中で三高の演説がはじまったから、大変だ。
彼はその場所に応じる変化を心得ていない。人影のないパンパン街でも四方を拝むぐらいだから、演説の方は益々もって紋切型。
「ワタクシはこのたび立候補いたしました三高吉太郎、三高吉太郎であります。ワタクシの顔をよーくごらん下さい。これが三高吉太郎であります」
と例の如くにやりだしたから、あまり関心をもたなかった花見客もドッと笑って、意外に大きな人だかりになってくれたのは有りがたいが、いずれも酒がはいっているから、ヤジのうるさいこと。