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せんきょさつじんじけん
選挙殺人事件
「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页
よそではヤジのはいらぬところにまで四方から半畳がとんで大賑い。一番うるさく半畳をとばすのが、オモチャのチョンマゲをかぶった酔客である。ところが、これを、よく見ると、先夜寒告が三高を訪れたとき、取次にでてバカ笑いした人相の悪い四十男である。「さては、奴はサクラだな」
なるほど、いかにもサクラに向く人柄だ。花見の場所へ先廻りして酔客に化けているのがいかにも役柄にはまった感じ。ところが、先生本当に酔っているらしく、半畳やマゼッカエシをとばせるばかりで、一向にサクラ的な言辞がない。しかし、それが時宜に適していたのだろう、酔ッ払った聴衆の黒山のような群のなかで、まともにサクラ然とした言辞を吐けば、一そう笑いものになるばかりでなく、いかにもみすぼらしい見世物になってしまうだろう。ともかくゲラゲラ笑われても、たのしまれているのは何よりだ。
「皆さまの清き一票は何とぞ三高吉太郎、三高吉太郎にお願い致しまーす」
と叫んで演説を終ると、ゲラゲラパチパチといくらか拍手も起って、
「よーし。心配するな。オレが引受けた」
「ときに、ここは何区だね」
なぞと声援がとんだほどである。