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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

五

でございますから若殿様が、御家督を御取りになったその日の内から、御屋形の中へはどこからともなく、今までにない長閑な景色が、春風のように吹きこんで参りました。歌合せ、花合せ、あるいは艶書合せなどが、以前にも増して度々御催しになられたのは、申すまでもございますまい。それからまた、女房たちを始め、侍どもの風俗が、まるで昔の絵巻から抜け出して来たように、みやびやかになったのも、元よりの事でございます。が、殊に以前と変ったのは、御屋形の御客に御出でになる上つ方の御顔ぶれで、今はいかに時めいている大臣大将でも、一芸一能にすぐれていらっしゃらない方は、滅多に若殿様の御眼にはかかれません。いや、たとい御眼にかかれたのにしても、御出でになる方々が、皆風流の才子ばかりでいらっしゃいますから、さすがに御身を御愧じになって、自然御み足が遠くなってしまうのでございます。

その代りまた、詩歌管絃の道に長じてさえ居りますれば、無位無官の侍でも、身に余るような御褒美を受けた事がございます。たとえば、ある秋の夜に、月の光が格子にさして、機織りの声が致して居りました時、ふと人を御召しになると、新参の侍が参りましたが、どう思召したのか、急にその侍に御向いなすって、