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とかいのなかのことう

都会の中の孤島

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第四号」1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,205 字 · 27 页

青空文庫

おお、こわいね」

しかし、その後も、グズ弁は身からスパナーを放さなかった。

するとミヤ子は多くの常連が飲んでる前で、

「この人、スパナーを持ッてんのよ。身から、放したことがないわよ」

笑いながら、ズケズケ云った。グズ弁はてれて、赤くなり、

「オレは運転手だから、自動車強盗の用心しなきゃアならない。オチオチできない商売はつらいよ」

しかし、右平の顔色が変ったのをグズ弁は見逃さなかった。ミヤ子は笑顔をそむけて満足そうであった。

「なんで、あんなことを云った?」

あとでグズ弁がミヤ子をなじると、

「だってさ。私、心配だからさ。あんた、下の夫婦を狙ってるから、怖いのよ。ああ云っとけば、あんたも、うっかり、スパナーで下の夫婦を殴り殺すわけにもいかないでしょうね。後生だから、そればかりはよしてよ。私だって、寝ざめが悪いわよ」

ミヤ子は蒼い顔をひきつらせて、もう我慢できないという見幕で、云った。

★

その時から一月ちかい月日がすぎた。

その夜の恋人はグズ弁であった。その晩はお客が殆どなかったので、グズ弁は店の一定の売上げのため、ミヤ子にたのまれて、多量にのみすぎた。