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とかいのなかのことう

都会の中の孤島

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第四号」1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,205 字 · 27 页

青空文庫

グズ弁だけがこの夫婦からいくらか人間扱いをうけていた。

それはグズ弁が彼の休日に(それは日曜日ではない)昼からこの店へ遊びにきて、それがおおむねミヤ子の外出中に当っており、自然に主人夫婦と話をかわすようなことが重ったからでもあるし、まアなんとなく主人夫婦に虫が好かれたと云った方がよいのかも知れぬ。

もっとも決して親友あつかいを受けはしなかったし、信用を博したわけでもない。仇敵や泥棒、人殺しよりは一ケタぐらい上の方の親しみだけは見せてもらえたという程度であった。

その結果として、グズ弁には、他の常連よりも深い真相がわかってきた。

彼はグズ弁とよばれているが、世間並にグズだと思ったら、彼にしてやられるであろう。彼はなるほど目から鼻へぬけるようなところはない。そして、そういう人々にバカにされ易いタイプであった。

たとえば彼が兵隊生活をしていたとき、目から鼻へぬけるような人物でも官給品の盗難にあう。するとそれを補充するために目をつけるのはグズ弁の所持品で、つまり人々はグズ弁とはしょッちゅう目から鼻へぬける人々のギセイになっている哀れな存在のように思いこんでいるのであった。