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さけのついおく
酒の追憶
「地上」1948(昭和23)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,870 字 · 14 页
甚だしきに到っては、ビイルを二本くらい持参して、まずそれを飲み、とても足りっこ無いんだから、主人のほうから何か飲み物を釣り出すという所謂、海老鯛式の作法さえ時たま行われているのである。
とにかく私にとって、そのような優雅な礼儀正しい酒客の来訪は、はじめてであった。
「なあんだ、そんなら一緒に今夜、全部飲んでしまいましょう。」
私はその夜、実にたのしかった。丸山君は、いま日本で自分の信頼しているひとは、あなただけなんだから、これからも附合ってくれ、と言い、私は見っともないくらいそりかえって、いい気持になり、調子に乗って誰彼を大声で罵倒しはじめ、おとなしい丸山君は少しく閉口の気味になったようで、
「では、きょうはこれくらいにして、おいとまします。」
と言った。
「いや、いけません。ウイスキイがまだ少し残っている。」
「いや、それは残して置きなさい。あとで残っているのに気が附いた時には、また、わるくないものですよ。」
苦労人らしい口調で言った。
私は丸山君を吉祥寺駅まで送って行って、帰途、公園の森の中に迷い込み、杉の大木に鼻を、イヤというほど強く衝突させてしまった。