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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
ベケットをはじめ船の者どもが、むこうの大座敷で酒をいただいているのが見えた。四ツ過ぎになってやっと膳を引き、それからまた一段と奥まった部屋へ連れて行った。
座敷の床几に、十六、七から二十一、二ぐらいまでの眼のさめるような美しい娘が六人、とりどりの服を着けて掛けていたが、奉行がなにかいうと、その中の一人がまず立って来て、重吉の顔を両手で挾み、口を※(「舌+低のつくり」、第3水準1-90-58)めてむこうへ行った。これはとおどろく間もなく、また次のが来ておなじようにして口を※(「舌+低のつくり」、第3水準1-90-58)めた。六人ともみな口を※(「舌+低のつくり」、第3水準1-90-58)め、もとの床几へおさまったところで奉行が、
「さて、お前はあの中でどれがいちばん美しいと思うか」とたずねた。
重吉は三人目に来た十六、七の娘の美しさが眼についてはなれず、胸がときめいてしようがなかったが、そうも言えず、美しい人ばかりで見分けがつかぬとこたえると、奉行は笑って、
「隠してもだめなこと。そなたの眼が遊びに行くのは、あそこのあの床几に掛けている女」
といい、あの娘を女房にもって、シトカで暮す気はないかとすすめだした。