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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

「小説公園」1952(昭和27)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页

青空文庫

といい添えた。

いずれは破船して、南海の藻屑と消える命を救われたことさえかたじけないのに、なんのゆかりもない三人の日本人を国へ送るため、雪の深いところで越年するつもりでいる。どういう因縁でこうまで心の深いひとにめぐりあったものかと、呆気にとられるばかりであった。部屋へ帰って二人にこの話をすると、半兵衛は、

「ベケットの親切はありがたいが、奥蝦夷の果てなどへ押しあげられては、凍え死にするか、熊に食われるか、いずれ、とてものことはあるまい。そこまでしてくれる親切があるなら、ついでのことに、長崎まで送ってくれるように頼んでくだされ」といった。

五十日ばかりも西南に走って、カムサッカのカワンという港に着いたが、一月ほど前に下り船が出、あとは来春でなければ便船がない。ベケットはいっそこの船で奥蝦夷まで送ってやるといい、翌朝、奥蝦夷の近海へ下ったが、季節は早や八月の末で、海いちめんに濃霧がたちこめ、どこが島やら地方やらで船をやることも出来ない。四日ばかりそのあたりをむなしく上り下りしたが、こんなことをしていると、海に氷が張りつめて行くも帰るもならなくなるから、カワンへ戻って、来春の便船を待つほかはないということになった。