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のざらし
野ざらし
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页
」
「だって、うるさいんですもの。私雑誌記者なんかしてたんでしょう……婦人雑誌じゃあるけれど……それがこんな所へはいったものだから、いろんなことを云われて困るのよ、あなたは知らないけれど、文壇てそりゃうるさいもんなのよ。」
「人が何と云おうと構わないさ。」
「だけど……。」
彼女は急に押し黙ってしまった。その黙り方が如何にも執拗だったので、昌作は突き放されたような気がして、反撥的に黙り込んだ。
「私ね、」と長くたってから沢子は云い出した、「実は宮原さんと誓ったことがあるの、これから真面目に勉強するって。そして何を勉強したらいいかさんざん迷った上で、画家になりたいと心をきめたのよ。そしてこんな所にはいり込んだのよ。記者と違って、ここだと午前中はすっかり隙だし、普通の珈琲店よりいくらかいいでしょう。どうせ国を逃げ出してきて、自分で働かなけりゃならないから、これ位のこと仕方ないわ。そして私こっそり、松本さんのアトリエに通ってるのよ。……誰にも分らないようにするつもりだったけれど、どうして分ったんでしょう?……あなただからお話したのよ。誰にも黙ってて頂戴、ねえ。