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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

」

突然、殆んど瞬間的に、心をつき刺すような眼付をじろりとまともに受けたのを、昌作は感じた。喫驚して顔を挙げると、禎輔は押っ被せて尋ねかけた。

「君は鮑のとろろってものを知ってるかい?」

昌作は知らないという顔色をした。

「君のお父さんや僕の親父などが、日本一の旨い料理だと云って話してきかしたものだ。僕はまだ食ったことはないがね。東海道の何とかいう辺鄙な駅にあるそうだ。取り立ての鮑をね、いきなり殻をはいで、岩のように堅くなった生身の肉を、大根研子でおろして、とろろにしたものだそうだ。……残酷じゃないか、君、生身を大根研子でおろされる時の感じは、どんなだろうね。それから、栄螺の壺焼だって……。」

そうなると、もう一種の述懐ではなくて、何か他意ありそうな攻撃的な語調だった。昌作は返辞に迷って、相手の顔をぼんやり見守った。顎骨の弱った四角な顔、わりに小さな眼と低い頑丈な鼻、短く刈り込んだ口髯、顔全体が何処となく間のびしていながら、その間のびのしたなかに、強い意力と冷たい皮肉とを湛えていた。眉の外れに小さな黒子があった。昌作の視線は次第にその黒子に集ってきた。