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のぎくのはか

野菊の墓

伊藤 左千夫

「ホトトギス」1906(明治39)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页

青空文庫

僕もただ話の小口にそう云うたまでであるから、民子に泣きそうになられては、かわいそうに気の毒になって、

「僕は腹を立って言ったでは無いのに、民さんは腹を立ったの……僕はただ民さんが俄に変って、逢っても口もきかず、遊びにも来ないから、いやに淋しく悲しくなっちまったのさ。それだからこれからも時時は遊びにお出でよ。お母さんに叱られたら僕が咎を背負うから……人が何と云ったってよいじゃないか」

何というても児供だけに無茶なことをいう。無茶なことを云われて民子は心配やら嬉しいやら、嬉しいやら心配やら、心配と嬉しいとが胸の中で、ごったになって争うたけれど、とうとう嬉しい方が勝を占めて終った。なお三言四言話をするうちに、民子は鮮かな曇りのない元の元気になった。僕も勿論愉快が溢れる……、宇宙間にただ二人きり居るような心持にお互になったのである。やがて二人は茄子のもぎくらをする。大きな畑だけれど、十月の半過ぎでは、茄子もちらほらしかなって居ない。二人で漸く二升ばかり宛を採り得た。

「まァ民さん、御覧なさい、入日の立派なこと」

民子はいつしか笊を下へ置き、両手を鼻の先に合せて太陽を拝んでいる。