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きんざんそうわ

金山揷話

大鹿 卓

「中央公論」1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,736 字 · 22 页

青空文庫

「だけど、市岡は最後まで意識がはっきりしてたようだ。なんだかおれの顔を見て淋しい微笑をもらしたりしたがね」

佐々木はしばらくしてそんな言葉を附け加えた。私はそれを聞いてなにか救われたように感じた。佐々木が幾瓦かの自分の血の尊さを、市岡の微笑と取りかえたように満足しているらしいのも私にとって救いだった。また、市岡が微笑をもらしたという事実も、それが彼の行為や、胸底に抱いていた諦念を解釈する暗示のように思えて、やはり私の息苦しい気持を救った。

「新聞の記事によると、自首したというのでむしろ加害者の方の心証がよく、市岡にはひどくその筋の同情が無いように書いてあったが、実際は、かねをやらなかった事にも市岡の方に十分の根拠があったんだと思うがな」

森山はまたそんな風にいい出して、何処までも市岡に憐愍をかんじている様子だった。

翌朝起きてみると、座敷は周囲の枯木とともに、雪に埋った崖のうえにたっていて、清冽ないろをした谿流をへだてて対岸の雪景色が一目だった。ぼんやり眺めていると、陽の差した白い山肌のひとところが、もくもくと動いているような気がした。おやッと思って見直すと、それは数十名の白衣の傷病兵が雪をふんで歩いているのだった。