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きんどけい

金時計

泉 鏡花

「侠黒兒」少年文學、博文館、1893(明治26)年6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,568 字 · 12 页

青空文庫

中

」

「貴下はほんとに智慧者でいらっしゃるよ。百人足らずの人足を、無銭で役ってさ。」

「腰弁当でやって来るには感心したよ。」

「ほんとにねえ。あのまあ蛇のいそうな草原を綺麗にらして、高見で見物なんざ太閤様も跣足ですよ。」

「そうかの。いや、そうあろう。実は自分ながら感心した。」

と揚々として頤髯掻い撫ずれば、美人はひたすら媚を献じ、

「ねえ貴下、私はなんの因果で弱小な土地に生れたんでしょう。もうもうほんとに愛想が尽きたんですよ。」

へいげんは頷きて、

「そうありたい事だ。こういっちゃ卿の前だが、実に日本人は馬鹿さな。しかしあんまり不便だ。せめて一件の金時計を蔭ながら拝ましてやろうか。」

と衣兜を探りて、金光燦燗たる時計を出だし、恭しく隻手に捧げて遥に新開地に向い、陋み嘲けるごとき音調にて、

「そらこれだ、これだ。」

途端に絶叫の声あり、

「あれえ!」

と見れば美人は仰様に転び、緑髪は砂に塗れて白き踵は天に朝せり。

太く喫驚せるへいげんは更に驚きぬ、手中の金時計はすでに亡し。

中

「おい大助。」

卒然従者を顧みて立住まれる少年は、へいげん等を去ること数十歩ばかり後の方にありて、浪打際を散歩せるなり。